ビワの花、暮れからだらだらとずっと咲いている。いい香りがする。
ビワの種には野望がある。食べたあと種を蒔きたくなるのは、そのためだ。そして発芽して大きくなって、また実を成らす。やがて、街をビワの木で埋めつくし、ビワシティへと変貌させるのだ。ほんのささやかな野望である。#マイクロノベル
このビワの木も、野望の一環です。
芽生えのしずくの中に、朝露に濡れる麦畑が映る。一滴の麦畑は、どすんと落ちて地中へと吸い込まれていく。一滴の麦畑は、陽が射すと昇華して天へと昇っていく。だが手に取ると、もはやそこに麦畑はなく、芽生えを育てる水へと化ける。
水栽培で咲いたあとのヒヤシンスを土に植える丘がある。そうすると翌年以降も咲いてくれる。そこは昨年、一昨年、その向こうには十年前、百年前……さらに丘の向こうには、千年前、一万年前のヒヤシンスも咲いているというが、見に行った者は帰ってこない。