歯神社

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歯神社   藤田雅矢
「遅れてすんません。ちょっと、歯が痛うて薬買うてたんで。あ、生中一つ」と店に入る。
「かまへんよ、先に飲んどるし。そやけど、歯は大事にせなアカンで、医者行きなよ。そや、梅田に歯神社っちゅうのがあってな、今度お参りしといたらどうや。ESTの入口のとこにある小さい神社やけど」
「御利益あるんですか」
「あるんですかて、えらありや。うちの爺ちゃん、おかげで入れ歯にせんですんどる」
 そんな話が聞こえたのか、生中を運んできた店員が話しかけてきた。
「歯神社なんてあるんですか。この近所にも、耳神社って古いお社がありますよ」
「へえ、この伊丹にそんなもんがあるんか」
「わたしが小さい頃、中耳炎になったときに、おばあちゃんがちょっとお参りに行ってくるって。夜中にお参りに行った次の朝、すぐに腫れが引いたの憶えてますもん」
「不思議なこともあるもんやな」
 すると、となりで飲んでいた兄ちゃんも興味があるのか、話に加わってきた。
「あの……俺の家、豊中なんですけど、目玉の絵馬がかかる眼神社ってあるんですよ」
「それやったら、淡路島には手神社がありまっせ」と、さらに別の客まで入ってくる。
 そんな話で盛り上がっていると、奥にいた爺さんが恐い顔をして突然立ち上がった。
「あんたら、そんな話したらあかん。新大阪駅を造るとき、鼻神社を移動させて、封印したんやから。聞こえたら思い出さはる」
 そのとき、グラスの棚がカタカタと揺れた。
「わ、地震や」
「そやから、言うてるやろ。ええかげんにせんと、ほんまに動きださはるで」
「そんなアホなこと。うちの地元は和歌山ですけど、白浜には足神社というのが……」
 その直後、ごおっと地鳴りがした。テーブルのグラスが落ちて割れると、大きな……

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