またまたマイクロノベル

その古本屋には特殊な本棚がある。その棚に本を挿すと十年過去へと飛ばされ、その間に売れていなければ古本として熟成した同じ本を買って帰ることができる。ただし、十年以内の新刊を棚に挿すことは厳禁。未来の本が読めることになるからだ。それで世界は一度滅んだ。
#マイクロノベ

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古書花と呼ばれる花がある。その花を押し花にして本のページに挟んでおくと古書香が漂う。ベンズアルデビドやバニリンなど有機化合物の仕業だ。しかし、長く挟んだままにしておくと、ときに物語は微妙に変化していることがあり、異本として珍重される。#マイクロノベ

(追記)古書花には、書物の灰を施すのがよいとされる。特に焚書灰は、最高級の肥料となる。よく咲いた古書花であれば、白紙の本に挟んで時を経ることで、いつしか物語が書き記されていることがある。また、そうして穫れた物語を売る者もあるらしい。

(追記2)古書花を嗅いで、つい口にしてしまうと、やがて自分の身体からも古書の香りが漂い、気がつけば本棚に挿された一冊の古本と化していた。誰か手に取ってページを開き、ほら自分の中を読んでくれやしないかと願いつつ、あれからもう十数年が経つ。いい古本になった。

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